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なぜ人は、良かったことを深掘りしないのか
仕事でも経営でも、問題が起きると人はすぐに反応します。
ミスが出た、クレームがあった、数字が悪かった。
そういう“悪いこと”には自然と目が向きますし、改善しようという意識も働きます。
でもその一方で、うまくいったこと、良かったことに対しては、意外と深く振り返らないことが多いように感じます。
私は最近、ある方とお話をする機会があり、その方のお話の中で今回の内容について考えさせられました。
そして、そこに会社が伸びるヒントがあるのではないかと思っています。
人は、悪いことにはよく気づきます。
なぜなら、もともと人にはネガティビティ・バイアスといって、良い情報よりも悪い情報のほうに強く注意を向けやすい傾向があるからです。
心理学の研究でも、人はポジティブな情報より、ネガティブな情報により強く反応し、そこから学び、影響を受けやすいと説明されています。
つまり、悪いところに目が向きやすいのは、ある意味では自然なことのようです。
だから会社でも、問題が起きればすぐに会議になるし、改善策も考えます。
ミスがあれば反省する。
クレームがあれば原因を探る。
数字が悪ければ見直す。
これはもちろん大事なことですし、やらなければいけないことです。
ただ、ここで思うのは、良かったことに対しては、そこまで真剣に振り返っているだろうかということです。
たとえば、
なぜ今回は現場がうまく回ったのか。
なぜこのお客様とのやり取りはスムーズだったのか。
なぜこの社員の動きは周りに良い影響を与えたのか。
なぜこのチームは空気が良かったのか。
こういう“うまくいった理由”を、悪かったときほど丁寧に深掘りすることは、意外と少ない気がします。
でも本当は、そこにこそ会社を伸ばすヒントがたくさんあるのではないでしょうか。
組織開発の考え方の一つに、Appreciative Inquiry(アプリシエイティブ・インクワイアリー)というものがあるそうです。
これは、何が悪いかを探すのではなく、その組織の中で何がうまくいっているのか、何がその組織に力を与えているのかに注目する考え方です。
つまり、「問題を直す」だけでなく、「すでにある良さを見つけて、それを育てる」という発想です。
私はこの考え方は、会社経営にもかなり大事だと思いました。
なぜなら、悪いところをゼロにすることばかり考えていると、経営がどうしても“マイナスを埋める仕事”になりやすいからです。
もちろん穴は埋めなければいけません。
でも、そればかりだと会社全体が守りの発想になりやすい。
一方で、良いところをもっと良くしていく考え方には、前向きさがあります。
すでにできていること、すでにお客様に喜ばれていること、すでに社内で機能していること。
そこを見つけて、なぜそれが良いのかを言葉にして、さらに磨いていく。
そうすると、会社の中で“強み”がはっきりしてきます。
また、強みを軸にした組織づくりでは、誰がどんな強みを持っているかをチームで理解していること自体が、成果につながりやすいとも紹介されています。
海外の世論調査では、チームの強みの“組み合わせ”そのものよりも、メンバーが自分たちの強みを理解しているかどうかの方が、エンゲージメントやパフォーマンスの良い指標になるとしています。
つまり、特別な才能を探すことよりも、すでに持っている良さを自覚し、それを仕事の中で活かせる状態をつくることのほうが大事だということです。
さらに、その世論調査では、自分の強みを毎日の仕事で使えている人は、仕事への関わり方が前向きになり、生産性も高まり、離職もしにくくなると紹介しています。
これは、苦手を無理に平均点まで引き上げるより、もともと持っている良さを活かしたほうが、人も組織も前向きに伸びやすい、ということでもあると思います。
私は、ここに大事な経営の視点があると思っています。
人はつい、「悪いところを何とかしなければ」と考えます。
でも、悪いところを1つ直しても、ゼロがゼロでなくなるだけのこともあります。
それより、良いところをさらに伸ばしていくと、その会社らしさが強くなり、結果として悪い部分が目立ちにくくなることがあります。
たとえば、
対応が早い会社は、多少の小さな不備があっても「動きが早くて助かる会社」と見てもらいやすい。
説明が丁寧な会社は、多少のトラブルがあっても信頼を失いにくい。
現場の雰囲気が良い会社は、多少忙しくてもチームで乗り切りやすい。
つまり、良い部分がはっきりしている会社は強いということです。
しかも、経営の実感として思うのは、悪い部分を無理やり引き上げるより、良い部分をさらに伸ばす方が、うまくいくことも多いということです。
ゼロから苦手を克服させるのは時間もエネルギーもかかります。
でも、もともとできていること、自然にうまくいっていることを磨く方が、本人もチームも前向きに取り組みやすい。
これは会社全体にも言えることだと思います。
だからこそ、経営者としては、問題が起きたときだけ動くのではなく、
「今うまくいっていることは何か」
「なぜそれがうまくいっているのか」
「どうすればそれをもっと伸ばせるか」
を考える時間を持つことが大切なのだと思います。
悪いところを直すのは大事です。
でも、それだけでは会社は守りに入りやすい。
会社を前に進めるには、良いところを見つけて、磨いて、伸ばしていく視点が必要です。
私は、会社を良くするというのは、問題を減らすことだけではなく、
その会社の“良さ”をもっと目立たせていくことでもあると思っています。
反省は必要です。
ですが、それと同じくらい“なぜうまくいったのか”を振り返ることが、次の成長につながるのではないでしょうか。
さて、皆さんの会社は“良さ”を見つけて、磨いて、伸ばしていますでしょうか?