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名選手が名監督とは限らない
会社の中には、
「この人は本当に仕事ができる」
と誰もが認める人がいます。
動きも早い。判断も的確。経験もある。結果も出している。
プレイヤーとしては、尊敬するほど素晴らしい。
ただ、その一方で、教育者としてはいまひとつ、ということも、実は珍しくないと思います。
仕事ができるからといって、教えるのも上手いとは限らない。
むしろ、プレイヤーとして優秀な人ほど、教え方はあまり得意ではないという場面も、会社の中ではよくあるのではないでしょうか。
これは、その人の能力が低いとか、人として問題があるとか、そういう話ではありません。
むしろ逆で、できる人ほど、自分の中で仕事が当たり前になりすぎているのだと思います。
長年の経験で身につけた判断、感覚、コツが、自分の中では自然すぎて、「なぜそうするのか」を改めて言葉にする必要がなくなっている。
だからこそ、人に教える段階になると、うまく伝えられないことが起こるのだと思います。
実際、ある海外の経営教育機関では、専門性が高い人ほど、自分が分かっていることを初心者に説明するのが難しくなる現象があると紹介されています。
一度理解してしまった人は、理解する前の感覚を忘れやすい。
そのため、説明する側は「これくらい分かるだろう」と思っていても、教わる側からすると、途中の大事な部分が抜けていて分からない、ということが起きやすいそうです。
職場でも、まさに同じようなことがあります。
教える側は悪気なく、
「まずやってみて」
「見れば分かるよ」
「前にも言ったよね」
と言っている。
でも教わる側は、何を見ればいいのか、どこで判断しているのか、どこが重要なのかが分からない。
だから覚えられないし、再現もできない。
すると、教える側は「なんでこんなことが分からないんだろう」となり、教わる側は「何が分からないのかも分からない」という状態になってしまいます。
ある人材・組織系の情報でも、知識や経験のある人ほど、知識のない相手の立場で考えにくくなる傾向があるとされているそうです。
その結果、説明が省略されたり、専門用語が増えたり、引き継ぎがうまくいかなかったりする。
これは、新人教育だけでなく、社内の連携やお客様への説明にも関わる話だと思います。
つまり、仕事ができることと、教えるのが上手いことは、似ているようで別の力なのだと思います。
仕事ができる人は、自分で答えを見つける力が高い。
でも教えるのが上手い人は、相手の理解度を見ながら、順番を整えたり、言葉を選んだり、つまずきそうなところを先回りして伝えたりする力がある。
この違いは、思っている以上に大きいと思います。
私は、教えるのが上手い人には、いくつか共通点があると感じています。
ひとつは、相手目線に立てることです。
前回のブログで「視座」の話をしましたが、相手の目線に合わせ、自分の言いたいことをそのまま話すのではなく、「この人はいまどこまで分かっているだろう」「どこで不安になるだろう」と考えながら伝えられる人は、やはり教えるのが上手いです。
もうひとつは、感覚でやっていることを言葉にできることです。
できる人ほど、「ここは感覚で分かる」「この流れなら自然にこうなる」と思ってしまいがちです。
でも、教わる側にとっては、その“感覚”こそが見えない部分です。
「何を見て」「どう判断して」「なぜそうするのか」を言葉にできて初めて、相手は理解できるし、再現もできるようになります。
この言語化する能力が必要です。
そしてもうひとつ大事なのは、一回説明して終わりにしないことだと思います。
教えるのが上手い人は、ただ説明するだけではありません。
やらせてみて、見て、少し修正して、振り返らせる。
この流れを持っています。
ただ知識を渡すのではなく、相手が自分で考えられるように持っていく。
そこまでできて初めて、“教える力”になるのだと思います。
あるOJTに関する研究でも、人を育てるうえで必要なのは、知識や経験だけではなく、相手を受け止める力、自分の考えをきちんと伝える力、相手に合わせて関わる力などだと整理されています。
ただ仕事が分かっているだけでは、人はなかなか育たない。
相手を見ながら伝え、少し背伸びすれば届く目標を持たせ、振り返りにつなげることが大切だという内容でした。
ここは、経営者としてよく考えないといけないところだと思います。
会社の中で「できる人」に教育を任せるのは、自然な流れです。
でも、できる人をそのまま指導役に置けば、人が育つとは限らない。
場合によっては、本人は優秀でも、教え方が下手で、教わる側が萎縮してしまったり、質問しづらくなってしまったりすることもあります。
もちろん、プレイヤーとして優秀な人は会社にとって大きな財産です。
ただ、その力を本当の意味で会社の力に変えるには、本人の中にあるものを、周りに伝わる形にしていく必要があります。
そしてそのためには、会社として、「できる人」と「教えられる人」は同じではないと理解しておくことが大切なのだと思います。
人が育つ会社は、できる人が多い会社というより、教え方が整っている会社です。
一部の優秀な人だけで回している会社は、その人がいなくなると急に弱くなることがあります。
でも、教える力が社内にある会社は、人が入ってきても育ちやすく、技術も考え方も残っていきます。
それは、長く続く会社をつくるうえで、とても大事なことだと思います。
教えるのが上手い人は、ただ優しい人ではありません。
相手の理解度を見て、言葉を選び、順番を整え、できるまで伴走できる人です。
そういう人が社内に増えていくと、教わる側も安心して質問できますし、できる人の力も組織全体に広がっていきます。
会社を強くするのは、できる人を増やすことだけではありません。
教えられる人を増やすことも、同じくらい大事なのだと思います。
プレイヤーとして優秀な人を増やすことも大切ですが、その力を周りに伝えられる人を増やしていくことが、会社をもっと強くするのだと思います。